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高松高等裁判所 昭和25年(控)80号 判決

被告人

浅田重義

主文

本件控訴を棄却する。

当審未決勾留日数中百日を本刑に算入する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人近藤勝の控訴趣意第一点は

(イ)  原判決には重要な法令の違反がある。原判決書はその第五葉と末葉との間の契印を脱漏しているが、裁判書には裁判をした裁判官が署名押印し、その毎葉に契印しなければならないことは刑事訴訟規則第五八条の定める所である。裁判書中最も重要な判決書はその正確性を保存し権威あらしめねばならないものであるから、右規則に違背し正確性を欠く原判決は破棄を免れないというのである。

原判決を調査すると、その第五葉と末葉との間に裁判官の契印を欠いていること所論の通りである。刑事訴訟規則第五八条第二項は公務員の作るべき書類には毎葉に契即することを要する旨規定しているが、契印を欠く書類を総て無効とする一般的規定は存しないから苟もその書類全部が当該公務員により作成せられたものであることを認め得る以上有効な書類とするを相当とする。原判決書末葉には裁判官の署名押印があり、その同一印影をもつてその第五葉に至るまで契印が施されている。そしてその内容から見て第五葉と末葉との間に落丁のないことが明らかであるから、原判決書はこれを無効とすべき理由がなく論旨は採用できない。

同第二点は

(ロ)  原判決は証拠に基かずして事実を認定した違法がある。原審は原判示第八及び第一三の各犯行日時を昭和二四年九月一八日午前零時頃及び同月二四日午後一一時頃と認定しているが、その証拠として引用する岡山繁義及び鶴岡竹次の各窃盗難届書によれば前者は同年八月一七日正午より翌一八日午前九時迄の間、後者は同月二四日午後一一時であつて、各判示日時に盗難に罹つた事実の記載がない。即ち原判決は虚無の証拠により右各事実を認定した違法があり破棄を免れないというのである。

原判示第八及び第一三の各犯行日時と右各窃盗難届書の各被害は時とが相違していることは所論の通りである。しかし昭和二四年一二月七日附起訴状によれば、原判示第八及び第一三に相当する三、四の事実につき各犯行日時として、右各窃盗難届書の被害日時と符合する同年八月一八日頃午前零時頃及び同月二四日午後一一時頃と記載せられ、原審第一囘公判調書には被告人が右起訴状記載の犯罪を全面的に自白した趣旨の記載がある。而して記録を精査しても右各犯行日時を前記起訴状記載以外の日時に認定すべき証左は全然存しないから原判示の右各犯行日時は誤記であると認めるを相当とする。従つてこの点につき虚無の証拠により事実を認定した違法があるという論旨は理由がない。

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